昨年末、小さな小さな声で「刺身が食べたい」と言ったSさん。
魚長でマグロの刺身を購入し、食べやすいように細かくしてからまた形に戻し提供した。
この頃は咀嚼も弱く、形態を落として安全に食事を摂って頂いていた。
この3ヶ月、座る姿勢の見直し、おしゃべりで口腔機能向上、食事形態も状態を見ながら少しずつUPさせるなど工夫してきた。
そして本日、試しに米飯を食べてみた。
結果、まだ安全に摂取することは出来なかったし、溜め込んでしまう、残渣が多いなどの課題は見つかったが、3ヶ月前に比べると各段に良くなっている。
取り組みは確実に成果を上げているし、可能性を感じることも出来た。
「常食」は「介護食」に比べ見た目も良いし、何より美味しい。
そして医学的なメリットも多い。
・よく噛むことで神経が活性化する。
・咀嚼回数が増え、唾液分泌も良くなることでムセが少なくなる。
・唾液が増えると消化を助け、胃も動く。
・唾液が増えると口の病原菌を防いでくれる。
Sさんが常食化を目指すためには「食物認識のUP」や「咀嚼による食塊形成」を高めていく必要があると感じた。
【その人らしさを取り戻すチャレンジ(常食化)】
新年度しっかりと取り組んでいきたい。
認知症ケアの基本に「一度に沢山の事を伝えない。」「1つずつ指示を出す。」とある。
このことを理解してケアにあたっているつもりだったが、十分に理解出来ていなかったと反省。
うがいが上手く出来ないSさん。
口の中に溜めることも、ブクブクも出来ないため、食物が残渣してしまう。
口腔衛生の為に口腔ケアスポンジを使って介助して除去する。
これは「うがい」を一つの動作と捉えてしまっており正しい声掛けが出来ていないことが要因だった。
うがいという動作を分解してみると
と複数の動作が組み合わさって構成されていた。
そこで「分解」し、一つずつ指示を出してみたところ上手にうがいをすることが出来たのだ。
Sさんは①水を口に含んだ後、②③の動作を想起できず、④水を吐き出す動作を行ってしまっていたのではないだろうか。
介助者が正しい声掛けを行うことで、本人が有する能力を発揮出来、結果的に自分自身で口の中を綺麗にすることが出来るようになった。
車椅子⇔椅子の移乗も同様で、これまでは腰を伸ばさず、低空のまま乗り移ろうとしていたが
と動作を分解して指示を出すことで以前に比べ立ち上がりが良くなったように見えた。
改めて認知症を正しく理解し、適切な声掛けをすることの大切さを学んだ1日となった。
最近声がしっかり出るようになって親戚の方やお世話になった人達にお電話が出来るようになったSさん。
自分の思っていること、感じていること、不安や悩みなども話してくれるようになり、職員一同喜んでいる。
そしてその中には要望(苦情)もあった。
「おしっこおしっこってあんまり言わないで。わたし恥ずかしいでしょ。
ご飯の時もそうだよ、あんなに大きい声で言わなくたって聞こえるんだから」
「こっちに来たらみんなに見られてどうするの。注目浴びちゃうでしょ…
あっちにもトイレあるのにこっちじゃなきゃダメなの?みんなに見えるでしょ?」と
ごもっとも。
とっても大切な事だが知らず知らずに私たちに抜け落ちてしまった感覚。
羞恥心への配慮に欠けていたこと謝罪すると「そうだよ」と大きく頷いている。
Sさんはしっかり声を出せるようになったからその思いを伝えて下さった。
1度声を、言葉を失った方が再び取り戻せる事は決して簡単な事ではない。
だからこそその声を聞ける事は私達にとって大きな学びだ。
しかし声を出せない方は、、、
声なき声にしっかりと耳を傾けていかなくては「その人らしさ」を守ることは出来ないということを改めて教えて頂いたような気がする。
昨年から取り組んでいるチャレンジ。
Sさんの声量は日に日にアップしてきた。
話し方や話す内容もかつてのSさんを彷彿させるほど。
今日は札幌の姪っ子さん夫婦にTEL。
新年の挨拶が出来ればよいかと思ったら、
感極まり涙しながらではあったが、はっきりと会話が出来ていて、職員一同驚愕した。
姪っ子さんは
「最近(自分の)まわりで不幸が続き、全然いいニュースがなかったけど、今日はおばちゃんとこんなに話が出来るなんて夢みたいです!ありがとうございました!」と大喜びだった。
「暖かくなったら必ず会いに行きます!」と嬉しい約束も取り付けたので、Sさんとは「それまでにもっと元気になろう!」と気持ちを一つにした。
また一つ頑張る理由が出来た!
「その人らしさを取り戻すチャレンジ」。
昔みたいに元気いっぱい大好きなお話をしているSさんの姿が見られる日はきっとくる!
自分達の取り組みが間違いではないと背中を押してくれているようでとっても嬉しかった。